はじめに:マーケ部門の「成果が出ない」は、構造変化のサインかもしれません

「検索順位は上がっているのに、問い合わせが増えない」――マーケティング部門からこうした報告を受けている事業責任者の方は少なくないでしょう。

原因は施策の質ではなく、検索という仕組みそのものの変化にあります。GoogleのAI Overview(検索結果をAIが自動要約する機能)が普及し、ユーザーはWebサイトを訪問せずに答えを得るようになりました。この「ゼロクリック検索」と呼ばれる現象が、B2Bの集客構造を根本から変えつつあります。

本記事では、この変化が事業にどう影響するか、そしてマーケチームに何を指示すべきかを整理します。


1. 何が起きているか――検索1位でもクリックが58%減る現実

まず、データを確認しましょう。

Seer Interactiveの2025年9月調査によると、AI Overviewが表示された検索では、通常の検索結果のクリック率が61%下落しました(1.76%→0.61%)。広告のクリック率も68%減少しています。

Ahrefsの2025年12月データでは、AI Overviewが表示されると検索1位のコンテンツでもクリック数が58%減少することが確認されています。

指標 AI Overview表示前 AI Overview表示後 変化率
検索結果クリック率 1.76% 0.61% -61%
広告クリック率 19.7% 6.34% -68%

Gartnerは「2026年末までに従来型の検索トラフィックは25%減少する」と予測しています(2024年2月発表)。つまり、現在のコンテンツマーケティングの成果指標をそのまま使い続けると、施策の効果を正しく評価できなくなるということです。

事業への影響はどれくらいか

HubSpotは2025年、自社ブログへの検索流入が前年比で約30%減少したことを公表しました。同社はコンテンツマーケティングの先駆者として知られる企業です。それでもこの影響を受けているという事実は、B2B企業全体にとって見過ごせないシグナルと言えるでしょう。

一方で、Redditは2024年の検索トラフィックが前年比で約2倍に増加しています。AIが「実体験に基づく情報」を優先的に引用する傾向があり、ユーザー生成コンテンツが強みを持つ構造が生まれているためです。


2. 買い手の情報収集が変わった――AIに直接聞く時代

B2B購買者の94%がAIツールを活用

この変化の背景には、買い手側の行動変化があります。

6senseの調査によると、B2B購買者の94%が購買プロセスでChatGPTなどのAIツールを使用しています。1日あたり推計8,000万〜1億件のプロンプトがB2B購買判断に関連しているとされています。

つまり、見込み客は自社サイトを訪問する前に、AIに「○○の課題を解決するサービスはどこか」と直接聞いている可能性が高いのです。ここで自社の情報がAIの回答に含まれるかどうかが、商談の入口に立てるかどうかを左右します。

Salesforceの対応事例

Salesforceは2025年、自社のコンテンツ戦略を「検索順位の獲得」から「AIによる引用の最適化」へ明確にシフトしました。同社のマーケティング責任者は「AIが回答を生成する際に引用される”情報源”としてのポジションを取ることが、次のSEOだ」と発言しています。製品比較ページや導入事例ページの構造を全面的に見直し、AIが抽出しやすい形式へ再設計しています。


3. 新しい成果指標――「訪問数」から「認知到達数」へ

ページビューだけでは成果を測れない

従来のコンテンツマーケティングでは、ページビュー(PV)やサイト訪問数が主要な成果指標でした。しかし、AIが検索結果上で回答を完結させる時代には、サイトに来なくても自社の情報に触れている人が大量に存在します。

Seer Interactiveの分析では、AI Overviewで引用されたブランドは引用されなかったブランドと比べて、その後の検索クリック数が35%多いというデータが出ています。直接の訪問が減っても、「AIに引用される」こと自体がブランド認知につながっているのです。

マーケチームに追加すべき指標

既存のPVやコンバージョン率に加えて、以下の観点をモニタリングに組み込むことをお勧めします。

  • AI引用の有無: ChatGPTやPerplexityに自社の製品カテゴリに関する質問を投げ、回答に自社が含まれるか定期的に確認する
  • 自社名での直接検索数の推移: Google Search Consoleで確認できます。AI経由で認知が広がると、ブランド名での検索が増加する傾向があります
  • 検索結果での表示面積: SemrushやAhrefsなどのツールで、AI Overview内での自社コンテンツの表示状況を把握できます

4. マーケチームに指示すべき3つの具体アクション

ここからは「明日から何をすべきか」を整理します。

アクション1:主要コンテンツ5本の構造を見直す

Semrushの2025年調査では、見出しが論理的に階層化されたページはAIに引用される確率が2.8倍になることが確認されています。

具体的には、以下のような構造化を進めます。

  • 1ページに1つの明確なテーマを設定する
  • 大見出し・中見出し・小見出しの階層を整理する
  • 各セクションの冒頭に結論を置く(読者もAIも情報を掴みやすくなります)
  • 比較表や数値データを積極的に埋め込む

まずは自社の最重要コンテンツ5本を選んで着手することをお勧めします。全ページを一度に改修する必要はありません。

アクション2:「顧客がAIに聞きそうな質問」に直接回答する

Authoritasの調査では、よくある質問形式で構成されたページは、AIに引用される確率が約40%向上することが示されています。

ターゲット顧客が「AIに聞きそうな質問」をリストアップし、それに対する明確な回答をコンテンツ内に配置します。たとえば以下のような進め方です。

1. 営業チームに「商談で頻繁に聞かれる質問」を10個挙げてもらう

2. その質問をそのまま見出しに設定し、直後に簡潔な回答を書く

3. 回答には自社独自の知見や実績データを含める

Content Marketing Instituteの2026年調査では、成果を出しているチームの65%が「量産」ではなく「コンテンツの関連性と品質の向上」を最重要施策として挙げています。

アクション3:AIツールで自社の「見え方」を定期チェックする

ChatGPT、Perplexity、Geminiなどに、自社の製品カテゴリや競合比較に関する質問を月1回投げてみることをお勧めします。自社が引用されているか、競合がどう紹介されているかを把握するだけでも、コンテンツの改善方針が明確になります。

Zoomは2025年、自社製品が主要AIツールでどのように紹介されているかを定期的にモニタリングし、引用されやすいFAQページや比較コンテンツを強化する施策を実施しています。


まとめ:コンテンツの「届け方」を再設計する

本記事のポイントを整理します。

1. 検索1位でもクリックされない時代が到来している。 AI Overviewの普及により、コンテンツが読者に届く経路が根本的に変わりつつあります

2. 成果指標の見直しが必要です。 訪問数だけでなく、AIでの引用状況やブランド指名検索数を含めた評価軸を導入する時期に来ています

3. まずは主要コンテンツ5本の構造化から始めることをお勧めします。 見出し階層の整理、FAQ形式の回答配置、AIツールでの自社チェック。この3つだけでも、AIからの引用確率は大きく変わるでしょう

コンテンツの構造化と品質向上を仕組みとして整えることで、マーケティングチームの工数は「量産」から「戦略設計」へとシフトできます。その結果として生まれた時間を、本来注力すべきGTM活動――顧客との直接対話、提案の磨き込み、市場との接点づくり――に回せるようになるのではないでしょうか。

AIが情報流通の主役になりつつある今、コンテンツは「読まれるもの」から「引用されるもの」へと役割が変わりつつあります。この変化に早く対応した企業が、次の商談機会をつかめる時代です。


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