インテントデータとは?BtoBセールスの「買いたい企業」を見つける技術と活用法

導入:見えない「買いたい」を、どう見つけるか

「商談になる前に勝負は決まっていた」。そう感じたことはないでしょうか。

B2Bの購買プロセスは、年々「見えない場所」へ移行しています。6senseの2025年版Buyer Experience Reportによれば、購買プロセスの70%は、ベンダーに接触する前の匿名リサーチで完了しています。さらに衝撃的なのは、最終的に選ばれるベンダーの95%が、検討初日の候補リストにすでに入っているという事実です。

つまり、見込み客がフォームを送信した時点では、すでに「選定」はほぼ終わっている。遅いのです。

では、まだ名前も見えない段階で「今まさに買いたいと思っている企業」を見つけるにはどうすればいいのか。その答えとして急速に普及しているのが、インテントデータです。


インテントデータの定義

インテントデータとは、企業や個人がWeb上で示す「購買意図(Intent)」を示す行動データの総称です。 検索クエリ、特定トピックの記事閲覧、ホワイトペーパーのダウンロード、比較サイトの訪問など、「何かを調べている」「何かを検討している」ことを示すデジタル行動の集合体を指します。

従来の営業リストが「属性(業種・規模・地域)」で企業を絞り込むのに対し、インテントデータは「行動(今、何に関心を持っているか)」で企業を絞り込みます。いわば、従来の営業リストが「住所録」だとすれば、インテントデータは「今日、店の前を歩いている人のリスト」と言えるでしょう。


トレンド・背景:急拡大するインテントデータ市場

市場規模と成長率

インテントデータ市場は急速に拡大しています。2026年時点の市場規模は約38億〜45億ドル(推計による幅あり)。2035年には約209億ドルに達するとの予測もあり、年平均成長率(CAGR)は16〜17%と、B2Bテック領域のなかでも突出した伸びを見せています。

70%以上のB2B企業がすでにインテントデータツールを導入済みという調査結果もあり、欧米では「使うかどうか」ではなく「どう使いこなすか」のフェーズに入っています。

主要プレイヤーの動向

プレイヤー 特徴 年間コスト目安
Bombora 最大級のB2Bデータ協同組合。18,000超のトピックをカバーし、月間170億件の行動データを追跡 $25,000〜75,000
6sense AI予測エンジンで「購買段階」を自動判定。ABM(アカウントベースドマーケティング)領域のリーダー $50,000〜150,000+
ZoomInfo インテントシグナルと検証済みコンタクトデータを統合。即時の営業アクションに強み $15,000〜50,000+
Demandbase ABMプラットフォームとしてインテント+広告配信を一体化 $50,000〜150,000+

Forrester Waveの2025年Q1評価では、Intentsify、6sense、Bombora、Informa TechTarget、Demandbaseの5社がリーダーに選出されています。

具体的な成果事例

インテントデータの活用成果は、すでに具体的な数字として表れています。

  • Kazoo社(6sense+Bombora連携):インマーケットアカウントの検出が15%増加、パイプライン転換率が20%向上、リードからの受注率が14%改善
  • MiQ社(Bombora活用):インテント連動型の広告配信で平均受注率が28%向上
  • Events Industry Council(Bombora+Apollo連携):メール開封率50%、クリック率15%を達成
  • ABMプラットフォーム全体のROI平均値は137%(Demandbase/6sense利用企業の集計)
  • インテントデータ活用企業の65%がパイプライン予測精度の改善を実感

「ダークファネル」問題とインテントデータの関係

B2Bの購買行動が「ダークファネル(Dark Funnel)」と呼ばれる不可視領域に移行していることが、インテントデータの需要を押し上げています。

ダークファネルとは、Slackコミュニティでの情報交換、同業者への口コミ相談、レビューサイトの閲覧、ChatGPTやGeminiを使ったベンダー比較など、従来のマーケティングツールでは追跡できない購買活動の総称です。Googleの2025年10月の調査では、B2B購買担当者の60%がChatGPTやGeminiでベンダーリストの作成・比較を行っていることが明らかになりました。

インテントデータは、このダークファネルの一部を「可視化」する技術です。完全な可視化は不可能ですが、少なくとも「どの企業が、どのトピックに関心を持っているか」のシグナルを捉えることはできます。


日本企業の現在地:構造的なギャップ

海外では標準ツールとなりつつあるインテントデータですが、日本市場には独自の課題があります。

ツールは出てきた。しかし活用は進んでいない

日本でもSales Marker(セールスマーカー)が「インテントセールスSaaS」として約510万社のデータベースと検索行動データを組み合わせたサービスを展開し、500社超の導入実績を持ちます。売上230%アップ、成約率200%アップといった成果事例も報告されています。電通もMerkuryプラットフォームを通じてグローバル展開を進めています。

しかし、日本のB2B企業全体で見ると、インテントデータの活用はまだ「一部の先進企業」の領域にとどまっています。

ギャップの構造的要因

このギャップには、いくつかの構造的な理由があります。

  • CRM/MAの基盤が未整備:インテントデータはCRMやMA(マーケティングオートメーション)と統合して初めて活きる。しかし日本の中堅B2B企業では、そもそもCRMにデータが正しく入っていないケースが多い
  • 営業プロセスの属人化:インテントシグナルを受け取っても、「誰が、いつ、どうアプローチするか」の仕組みがなければデータは宙に浮く
  • GTM全体設計の不在:ツール単体の導入が先行し、マーケティングと営業を横断する全体設計(Go-to-Market戦略)が抜け落ちている

実践ポイント: インテントデータは「魔法の杖」ではありません。データの解像度を高めるには、現場で顧客と接して得られる「市場の手触り」との突き合わせが不可欠です。数字だけで判断すると、本当に重要なシグナルを見落とします。


優先アクション:最初に取り組むべきこと

インテントデータに興味を持った経営者・事業責任者が陥りやすいのは、「いきなり高額ツールを導入する」ことです。選択と集中が重要です。

ステップ1:自社の検索キーワードを棚卸しする

まず、自社の製品・サービスに関連する検索キーワードを10〜20個リストアップします。これが「どのインテントを追うか」の出発点になります。ツールは不要。Googleサーチコンソールと営業現場のヒアリングで十分です。

ステップ2:自社サイトの訪問企業を可視化する

Google Analyticsの企業データや、無料〜低コストのIP逆引きツールで、自社サイトに来ている企業を把握します。これだけで「関心を持っている企業」の輪郭が見えてきます。

ステップ3:営業アクションの「型」をつくる

インテントシグナルを検知したときに、誰が・何時間以内に・どんなアプローチをするかを決めておきます。仕組み化しなければ、データは使われません。

ステップ4:小さく試して、サイクルを回す

最初から年間数百万円のツールを入れる必要はありません。まずは上記3ステップを2〜3ヶ月回し、「どのシグナルが商談化につながるか」のパターンを見つけることが先です。実行しながら学ぶ姿勢が、再現性のある成果につながります。

実践ポイント: ツール導入の前に「GTM(Go-to-Market)全体の設計」が必要です。マーケティング・営業・カスタマーサクセスを横断する全体設計があってこそ、インテントデータは本来の力を発揮します。ボトルネックはデータではなく、データを活かす「仕組み」の方にあることがほとんどです。


まとめ

インテントデータは、B2Bセールスの「見えない購買行動」を可視化する強力な技術です。海外ではすでに標準インフラとなり、70%以上の企業が導入済み。日本でも先進企業が成果を出し始めています。

ただし、データは手段であり、目的ではありません。大切なのは、データと「市場の手触り」を組み合わせ、自社のGTM全体を設計することです。ツールの前に戦略。数字の前に現場感覚。この順序を間違えなければ、インテントデータは確実に成果を生みます。

私たちギアソリューションズでは、GTM-Led Growthの考え方をベースに、データ活用とGTM全体設計をハンズオンで伴走支援しています。「インテントデータに興味はあるが、何から始めればいいかわからない」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。


参考情報


執筆:道家俊輔(ギアソリューションズ株式会社)
リクルートで事業戦略策定・GTM戦略設計に従事後、大手消費財メーカーでDX/CX戦略推進。現在はGTM-Led Growthコンサルティングを提供。